東京高等裁判所 平成4年(ネ)3658号 判決 1994年5月25日
控訴人
有限会社清川ビル
右代表者取締役
清川節子
右訴訟代理人弁護士
矢田英一郎
同
服部邦彦
同
大木卓
右訴訟復代理人弁護士
二瓶茂
控訴人補助参加人
京葉都市開発株式会社
右代表者代表取締役
高橋理市
右訴訟代理人弁護士
小村義久
控訴人補助参加人
三菱マテリアル建材株式会社
(旧商号 三菱セメント建材株式会社)
右代表者代表取締役
魚住速人
右訴訟代理人弁護士
渡邉修
同
吉澤貞男
同
山西克彦
同
冨田武夫
同
伊藤昌毅
同
峰隆之
控訴人補助参加人
株式会社伊藤建築設計事務所
右代表者代表取締役
伊藤武
右訴訟代理人弁護士
平沼高明
同
堀井敬一
同
木ノ元直樹
同
加藤愼
同
永井幸寿
被控訴人
齋藤行雄
右訴訟代理人弁護士
遠藤直哉
同
村田英幸
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人から、
(一) 原判決添付物件目録二記載の土地と同目録三記載の建物についてされた千葉地方法務局船橋支局昭和六三年六月四日受付第二八五〇五号による被控訴人への所有権移転登記の各抹消登記手続
(二) 原判決添付物件目録二記載の土地について設定された千葉地方法務局船橋支局昭和六三年六月四日受付第二八五〇七号抵当権設定登記及び同法務局同支局同年七月二九日受付第三九二三四号根抵当権設定登記の各抹消登記手続
(三) 金二五八二万四三一八円の支払い
の履行を受けるのと引き換えに、金三億八三三一万九一〇九円及びこれに対する平成二年八月三日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人の主位的請求のうち、その余の部分を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを六分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は、第一審については、補助参加人京葉都市開発株式会社及び補助参加人三菱マテリアル建材株式会社の負担とし、第二審については、補助参加人京葉都市開発株式会社、補助参加人三菱マテリアル株式会社及び補助参加人株式会社伊藤建築設計事務所の負担とする。
三 この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
第二 当事者の主張
原判決事実記載のとおりであるからこれを引用する。
ただし、以下のとおり付加訂正する。
一 原判決四枚目裏一〇行目と一一行目の間に以下のとおり付加する。
「仮に、右一部解除が認められないとしても、被控訴人は控訴人に対し、平成五年四月一二日の本訴口頭弁論期日において、本件売買契約の全部を解除する旨の意思表示をした。なお、被控訴人は本件一の土地を訴外児島敏和(以下「訴外児島」という。)に転売し、これを返還することができないので、右解除と同時に、本件一の土地については原状回復の代わりにその価格相当分を賠償することとして、右価格賠償債務と本件一の土地の売買代金返還債務とを対当額で相殺する。」
二 同五枚目裏七行目から八行目の「敏和(以下「訴外児島」という。)」を削除する。
三 同七枚目表一一行目の次に以下のとおり付加する。
「5 同時履行
控訴人は、被控訴人が以下の登記手続の履行及び法定果実の返還をするまで本件売買代金の支払を拒絶する。
(一) 本件二の土地と本件建物の控訴人への所有権移転登記手続
(二) 本件二の土地について設定された千葉地方法務局船橋支局昭和六三年六月四日受付第二八五〇七号抵当権設定登記及び同法務局同支局同年七月二九日受付第三九二三四号根抵当権設定登記の各抹消登記手続
(三) 平成二年八月三日から本件建物の返還までに収受した本件建物の賃料収益(賃料収入から固定資産税等の必要経費を差し引いたもの)及び被控訴人が本件建物の各賃借人から預かっている敷金の返還。なお、前同日から平成六年二月末日までの間の右賃料収入は三〇九二万三五七三円であり、そこから差し引かれるべき固定資産税・都市計画税のうち、平成二年八月三日から平成五年末までの金額は四三三万五三六七円である。」
四 同八枚目表三行目の「である。」の次に以下のとおり付加する。
「なお、瑕疵担保による損害賠償請求権を保存するには、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はないと解されるところ、被控訴人は平成元年一〇月一一日以降、控訴人の代理人であった朝倉弁護士を通じて、控訴人と本件建物の瑕疵についての交渉を行っている。」
五 同八枚目表四行目と五行目の間に以下のとおり付加し、同五行目の「2、3」を「2、4」と訂正する。
「5 抗弁5は争う。法定果実の返還請求権と原状回復請求権とはその価額において著しい差があり、牽連関係はなく、同時履行の関係には立たない。なお、仮に、右同時履行が認められるとすれば、被控訴人は、本件二の土地と本件建物の固定資産税・都市計画税を負担しているほか、本件建物の修理・維持等のために別紙必要費一覧表記載のとおり合計二六八万六三九一円を支出しているので、右各金員は賃料収入から差し引かれるべきである。なお、平成二年八月三日から平成六年二月末日までの間の右賃料収入が三〇九二万三五七三円であり、そこから差し引かれるべき固定資産税・都市計画税のうち、平成二年八月三日から平成五年末までの金額が四三三万五三六七円であることは認める。」
六 同一二枚目裏八行目と九行目の間に以下のとおり付加する。
「(予備的請求その4・錯誤無効に基づく原状回復請求)
一 請求原因
1 本件売買契約と瑕疵
主位的請求の請求原因1(本件売買契約)、2(目的物の瑕疵)のとおり。
2 錯誤による無効
被控訴人は、本件売買契約当時、本件建物が雨漏りする建物であるにもかかわらず、本件建物が雨漏りせず、完全に修理済の建物であると誤信して本件建物及びその敷地である本件一、二の土地を買い受けたものであるから、本件売買契約は錯誤により無効である。なお、本件建物が雨漏りしないものであることは右契約の当然の前提となっていたものである。
3 よって、被控訴人は控訴人に対し、本件売買契約が無効であることに基づく原状回復請求として、本件売買代金のうち、本件建物の価格相当額一億七八一二万五〇〇〇円及び本件二の土地の価格相当額二億五六六〇万九〇五〇円の合計金四億三四七三万四〇五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年八月三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の認否は、主位的請求の請求原因1、2に対する認否のとおり。
2 同2の主張は争う。」
七 原判決添付物件目録三の「鉄筋造」を「鉄骨造」と訂正する。
第三 証拠
原審及び当審証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一主位的請求(瑕疵担保責任に基づく原状回復請求)の請求原因について
1 本件売買契約
請求原因1(売買契約)の事実は当事者間に争いがない。
2 本件建物の瑕疵
(一) 瑕疵の存在
原判決添付別紙瑕疵等一覧表(一)及び(四)の証拠欄に記載した各証拠及び甲第一〇九、第一一〇号証、第一一二ないし第一一五号証、第一一九、第一二〇号証、第一二二ないし第一二六号証(これらの証拠については、原審証人齋藤和行の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる)及び当審における鑑定の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件売買契約後、本件建物のほとんどの室内において、同一覧表(一)記載のように雨漏りや雨漏りに起因すると思われる壁のしみ、かび、内装のはがれ等があり、虫がわく、床が沈むなどの被害も生じていたが、右雨漏りはその後も継続していること、なお、四〇二号室については、同一覧表には雨漏り等の事実の記載はないが、甲第一二〇号証の、の写真によれば、その後、室内北側付近の雨漏りのため、壁紙がはがれるようになっていること、また、本件建物の水道管は、同一覧表(四)記載のように本件売買契約の後三回にわたって破裂し、出水事故を起こしているところ、平成元年一〇月の場合は、地中の水道管が破裂し、構造上排水されにくいところへ大量の漏水があったため、地面は泥沼化し、一〇一号室のリビングルームの床を全部はがして修理を行ったが、このような水道管の破裂、出水事故は今後も再発する可能性があること、さらに、同一覧表(四)記載のとおり、平成二年八月浄化槽から汚水が大量に漏れている事実が判明しているところ、周囲の地中への汚水の浸透によって、現に悪臭が発生しており、地盤沈下、建物の傾斜、汚水の噴出等、環境衛生上の大きな問題に発展する危険性があることが認められる。
これらの事実からすれば、本件建物は、建物全体にわたる雨漏りと、水道管の破裂、出水事故の危険性及び浄化槽からの汚水漏れという重大な瑕疵があるというべきである。
後記のように、本件建物には、本件売買契約以前から外壁に相当数のクラックが存在し、各室内における雨漏り被害もかなりの程度に達していたと推認されるうえ、雨漏りの存在は、天井、壁のしみ等により、外見上ある程度明らかになる事柄ではあるが、一般的にみて、クラックの存在が直ちに雨漏り、ことに建物全体にわたる大規模な雨漏りと結び付くものではないし、まして、本件建物が建築後二年七か月の鉄骨造りの(成立に争いのない甲第三号証)共同住宅であったことからすれば、このような建物を買い受けるに当たり、買主において、右のような大規模な雨漏りが存在する可能性を予期し、建物全室の状況を調査、確認すべきであるとはいえないから、本件建物に前記のような雨漏りが存在することは、通常容易に発見できない性質のものというべきであって、右雨漏りは隠れた瑕疵ということを妨げない。また、本件建物のもう一つの重要な瑕疵である水道管が破裂しやすいことや、浄化槽からの汚水漏れについては、一般人にとって、異常が起こって初めて問題の存在に気付く性質のものであり、通常容易に発見できない瑕疵であると認められる。
したがって、本件建物の前記のような瑕疵は、いずれも民法五七〇条にいう「隠レタル瑕疵」に当たるというべきである。
(二) 右瑕疵の原因等
当審での鑑定の結果によれば、前記各室への雨漏りを生じさせている箇所及びその原因、また、水道管の破裂、浄化槽からの汚水漏れの原因は概ね以下のようなものであること、なお、雨漏りの主因は、①、②及び④であることが認められる。
① 本件建物の館側外壁タイル面に生じている亀裂箇所からの雨漏り
これは本件建物の地盤が、最上層の関東ローム層を除けば、軟弱地盤(沖積層における泥質堆積物)であり、地震や前面道路を頻繁に通行する重車両等の振動を受けやすいため、建物を安全かつ強固に支持するに足りる工法(杭地業等)を採用すべきであるにもかかわらず、いわゆるべた基礎としたために建物の構造が極めて不安定となり、外壁躯体(メース)の層間変位角の許容値を超え、館側外壁仕上げ材(タイル)に亀裂が生じたものである。
② 本件建物の屋上防水層及びバルコニー等の防水層に生じている細亀裂箇所からの雨漏り
これは、本件建物の屋上防水層及びバルコニー等の防水層は、砂付ルーフィングにより施工されているところ、同材は他の防水材に比べ、安価であるが、劣化が早いうえ、施工精度にも問題があったため、劣化がかなり進み、防水層が躯体より剥離するなどして細亀裂が生じていること、なお、バルコニー等の防水層については、モルタルにより保護されているが、その保護モルタルも劣化が進み、亀裂が発生していることによるものである。
③ 本件建物のパラペット等に固定されている柱型及び手摺りの固定箇所に生じている亀裂からの雨漏り
これは、前記①のように、本件建物の構造が不安定なため、パラペット等に固定されている鉄骨造の柱型及び手摺りの固定箇所に受ける外力により亀裂が発生していることによる。
④ 本件建物の外壁面に設けられた窓枠の固定箇所に生じた亀裂からの雨漏り
これは、本件建物の構造が不安定であり、前記①のような振動によって外壁躯体の層間変位角の許容値を超えたため、本件建物の外壁材と外壁に設けられた窓枠との間に亀裂が発生したことによる。
⑤ 本件建物の外壁面に設けられた通気口等の外壁貫通箇所及び設備機器・配管等の固定のためのビス・ボルト等の施工箇所からの雨漏り
このうち、通気口については、外壁貫通箇所につば付き管材を使用しておらず、かつ、コーキング施工方法も不適切だったことによるものであり、設備機器・配管等のビス・ボルトについては、その施工箇所について、耐防水処理がされていないことによるものである。
⑥ 水道管の破裂(切断)
これは、一階床下配管及び同管よりの立ち上がりが水平垂直を無視した施工だったため、不必要な外力が配管役物と管との接続部にかかったことに加え、配管について完全な耐電触処理がされていないことによる電触の影響や、埋戻し材の選定が不適切だったことなどによって生じたものである。
⑦ 浄化槽からの汚水漏れ
これは、浄化槽本体とその接続管に亀裂又は破損等が発生したことによるものと考えられるが、その原因としては、イ耐圧盤の施工が不適切であったため、地盤の流動や、地震又は前面道路を通過する重車両等の振動により右亀裂、破損等が生じた、ロ浄化槽本体を保護固定するためのピットが施工されていないため、竣工後に車両等重量物を上に乗せたことによって右亀裂、破損等が生じた、ハ施工時の浄化槽本体埋設後の埋戻しに山砂等を使用し水締めをすべきところ、発生土により施工したため、雨水等により地盤が軟弱になり、右亀裂、破損等の発生、進行を促進させた、のいずれかあるいはその複合が考えられるが、施工時の資料が提出されないことや、現状では掘り起こしも不可能なため、それ以上の原因の確定は困難である。
以上のとおり認められる。
なお、右のような当審での鑑定の結果による本件建物の瑕疵の原因、ことに本件建物の雨漏りの根本的な原因が、本件建物が軟弱な地盤の上にべた基礎で建てられたことによる構造上の不安定さと、屋上、バルコニー等の防水工事の不備にあるとする点は、甲第五〇号証の本件建物の調査報告書でも同様の指摘がされているところであるうえ、甲第一九、第六七号証、丙第二号証の本件建物に関する種々の調査結果とも概ね符合するものであり、信頼性の高いものと考えられる。
3 契約内容の不達成
当審での鑑定の結果によれば、本件建物は、部分的改修・補修等の修繕では、一時的に雨漏りは防げても、近々の再発は必至であり、建物の機能回復のためには、本件建物を解体し、地質調査及び構造設計より改めて行い、改築する以外ないこと、また、水道管についても、再び管の破裂、切断による出水事故の可能性があることから、本件建物内の全配管を、耐電触管材等により施工替えすることが必要であること、さらに、浄化槽についても、現在汚水漏れがあり、環境衛生上大きな問題となる可能性があることから、地耐力等を十分に検討し、適切な地業と併せて浄化槽埋設用ピットを設け、新しい本体を設置し、山砂等による埋戻し工法による埋設替えが必要であるところ、これら水道管及び浄化槽の補修(施工替え)は、技術的にはむろん可能であるが、雨漏りの補修ができない現状で、それらの補修のみを行うことは経済的合理性を欠き、結局、本件建物の建物としての機能を回復するには全面改築しかないことが明らかであり、これらの事実からすれば、被控訴人において、本件建物を賃貸して使用収益するという本件売買契約の目的は達成することができなくなったことは明らかである。
4 解除の意思表示、控訴人の商人性
原判決一七枚目表六行目冒頭から裏四行目末尾までを引用する。
二抗弁1ないし4について
原判決一七枚目裏六行目冒頭から同二三枚目表一〇行目末尾までを引用する。ただし、以下のとおり付加訂正する。
1 原判決一九枚目裏九行目の「認められ」を「認められる」と訂正する。
2 同二〇枚目表九行目の「いずれにせよ、」を以下のとおり訂正する。
「前掲甲第六五号証によれば、右金員を受領した被控訴人が驚いて訴外児島に問い合わせたところ、同人からその金員はいずれ返すことになるので心配ないから、しばらく預かってほしいとの返答を得たことが認められるのであって、これらの事実からすれば、」
3 同二〇枚目裏三行目の「(前記1の(二)、(三))」を削除する。
4 同二一枚目表七行目の「しかし」から同裏三行目末尾までを以下のとおり訂正する。
「しかし、建物の外壁にクラックが存在するからといって、それが直ちに雨漏り、ことに建物全体にわたる大規模な雨漏りと結び付くものではないし、前記のように、本件建物が売買当時建築後三年も経っていなかったことなどからすれば、被控訴人が、右のような訴外児島や訴外上東野の説明を信じたこともあながち無理からぬ面がある。また、本件の雨漏りは、局部的、一時的なものではなく、建物全体の、しかも、建物の構造等に起因する恒常的なものであって、その点が解除原因たる瑕疵となっているものであるが、このような雨漏りの範囲、程度、原因等を把握するには、ある程度専門的な調査が必要とされるところ、一般的な居住用建物の買主にそこまでの調査義務はないと解されることなどからすれば、被控訴人が本件建物の雨漏りの瑕疵を知らなかったことにつき過失があるとはいえない。」
5 同二二枚目表六行目の「(1)」から同裏四行目の「③の」までを以下のとおり訂正する。
「(1) 前記のように、本件契約解除の理由となるべき瑕疵は、①本件建物全体にわたる雨漏り、②水道管の破裂、出水事故の危険性及び浄化槽からの汚水漏れであるが、これらの瑕疵について、被控訴人が本件売買契約当時認識していなかったことは2の(二)で述べたとおりである。
(2) そして、右①の瑕疵については、被控訴人が、平成元年八月六日の台風の際に三〇三号室の居住者訴外野田から大漏水の発生の連絡を受け、同時に過去の雨漏りについても話を聞いたとき(前記甲第六五号証及び原審証人齋藤和行の証言)、②の」
6 同二三枚目表三行目の「とどまるから、」を以下のとおり訂正する。
「とどまるうえ、右のような苦情を聞いた被控訴人が訴外児島にそのことを問いただしたところ、同人は、本件建物は高台の上にあり、強い風に当たるため雨が逆流して窓から入ることによるものであり、それは水切りの庇をつければ簡単に直るので、その工事を補助参加人京葉都市開発にさせるなどと言っていたことが認められるから、」
三原状回復請求権の内容について
原判決二三枚目裏一行目冒頭から同二四枚目裏五行目末尾までを引用する。
四同時履行の抗弁について
1 瑕疵担保責任に基づき売買契約を解除した場合、買主は目的物を原状に復して返還すべきであり、この場合、売買代金の返還は右目的物の返還と同時履行の関係に立つところ、目的物が不動産の場合、それについてされた所有権移転登記の抹消登記及び売買契約後にされた担保権の設定登記の抹消登記も右原状回復義務に含まれると解されるが、所有権移転登記の抹消登記によっては原状回復の目的を達しがたいなどの特別の事情がある場合を除き(本件でそのような事情があるとは認めがたい。)、買主から売主への所有権移転登記が原状回復の内容に含まれるとは解しがたい。
成立に争いのない甲第二号証によれば、本件二の土地について、千葉地方法務局船橋支局昭和六三年六月四日受付第二八五〇七号抵当権設定登記及び同法務局同支局同年七月二九日受付第三九二三四号根抵当権設定登記がされていることが明らかであるので、控訴人は、被控訴人に前記本件建物の価格相当金一億七八一二万五〇〇〇円及び本件二の土地の価格相当金二億〇五一九万四一〇九円の合計三億八三三一万九一〇九円を支払うのと引き換えに右抵当権及び根抵当権並びに本件二の土地と本件建物の所有権移転登記の各抹消登記手続を請求できるというべきである。
2 また、売買契約が解除された場合、売主は、民法五四五条二項に基づき、受領した代金に受領のときからの利息を付して支払うことを要するが、それとの均衡上、買主はその期間目的物を使用収益した利益を返還する義務を負い、両者は同時履行の関係に立つというべきである。
本件で、平成二年八月三日(本件売買契約解除の日の翌日)から平成六年二月末日までに収受した本件建物の賃料収入が三〇九二万三五七三円であること(それ以降の賃料額については、その具体的な金額を認めるに足りる証拠がない。)、そこから差し引かれる固定資産税・都市計画税のうち、平成二年八月三日から平成五年一二月末日までの分が四三三万五三六七円であることはいずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一二一号証の四によれば、右固定資産税等のうち、平成六年一、二月分は、二一万二〇六〇円(平成五年分の右税額一二七万二三六四円の六分の一、円未満切り捨て)であると認められる。
また、別紙必要費一覧表記載の各証拠(いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、前記期間中の賃料収入を得るために七六万三八八八円(同一覧表記載の金員のうち、平成二年八月三日以降の支出の合計額である。ただし、同月三〇日の加藤健作建築士に支払った調査費用等は、本件建物の維持管理との関係が不明であるので、除外した。また、浄化槽維持費については平成三年と四年分及び平成二年の八月三日以降の分を日割り計算して計四万二六二二円を計上した)を支出したことが認められる。その余の被控訴人主張の必要費については、右期間中の賃料収入を得るのに必要な費用であったとは認めがたい。
なお、控訴人は、本件建物の賃借人から被控訴人が預かっている敷金についても同時履行を主張するが、これらの敷金の返還債務は売買契約解除に伴う所有権の移転により当然に控訴人に引き継がれるものではあっても、本件建物の使用収益による利益ということはできないから、右敷金についての同時履行の主張は失当である。
したがって、被控訴人が控訴人に償還すべき右期間中の本件建物からの賃料収益は、前記賃料収入三〇九二万三五七三円から固定資産税等四三三万五三六七円及び本件建物の維持管理の必要費七六万三八八八円を差し引いた二五八二万四三一八円となり、被控訴人は、控訴人から前記三億八三三一万九一〇九円の支払を受けるのと引き換えに右金員を支払う義務がある。
五結論
以上のとおりであるから、被控訴人の主位的請求は、右四の1の各登記手続及び同2の金員の支払いと引き換えに、金三億八三三一万九一〇九円の支払い及びこれに対する平成二年八月三日から支払済まで年六分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却する。
よって、民訴法三八六条により右と一部結論を異にする原判決を変更し、訴訟費用及び参加費用の負担につき、同法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙橋欣一 裁判官矢崎秀一 裁判官及川憲夫)
別紙必要費一覧表<省略>